カップレの新コーナー「のむけんの推し活」
このコーナーは僕が今まで撮影で出会ってきた方々の中で、ちょっと気になる、応援したい、そんな方にスポットライトを当てて紹介するコーナーです。
正直にいうと個人的にもっと知りたい、そう思った方に接近するための口実が9割。
でもあとの1割は、あなたにもその魅力が伝わったらいいなぁ、一緒に応援してくれたら嬉しいなぁと思ってシェアします。
サーキットで撮影してて、ちょっとお話して魅力に気づくときもありますし、その後インスタでつながってから「この人面白いなぁ」って思うこともあります。
そうした人たちを順次紹介。
この連載を通じて、あなたの“推し”が見つかれば嬉しいです。
そして、推しを通してサーキットをもっと楽しんでもらえたら、最高です。
出会い —誠実さ、真摯さ、そしてとどめの、大和田スマイル—
第一回は大和田亮介選手です。
出会ったのは2025年5月3日(土)
この時の僕は数日前から「バイクが撮りたい病」になっていて、バイクのスポーツ走行枠を探してTC1000に向かいました。
当日は予想通り、大勢のバイクが走っていました。
3つの走行枠に分かれていましたが、各走行枠20台以上は走っていたと思います。
走行台数が多い時は数台、あるいは1台のバイクに的を絞って撮影するのが僕のパターンです。
この日も枠内1台に絞るために撮影を始めました。
そうした中で無意識的に選んだのが大和田選手でした。
選ぶ基準は「とにかく速い」「ヘルメットやウェアがかっこいい」「エンジン音に惹かれて」その時によって様々です。
確かに大和田選手は速かったし、かっこよかった。
でもファインダーを覗きながらそれだけじゃない何かを感じて、吸い寄せられるようにシャッターを切り続けた。
なんとも言えない不思議で、少し興奮した気持ちの中、走行時間が終了。
僕はピットインしてきた大和田選手を目で追った。
ラッキーなことに大和田選手は、僕が撮影していたわずか10m位先のピットへマシンを入れました。
「近くに居るんだし、早めにご挨拶して掲載許可頂いておこう」と視線を向けると、マシンを降りた大和田選手はチームの方と真剣に話をしていました。
その真剣さが、並の真剣さじゃない、怖いぐらいで途端に僕は声をかけられなくなった。
足がすくんで動けなくなった僕はわずか10mの距離が縮められず、大和田選手のもとへ向かうのを諦めた。
「今の自分が、この人の時間を奪っていいのか」──そんな想いもあったけど、何より声を掛ける勇気がでなかった、近づけなかった。
そんな情けない自分に気づかないふりをして、そして周りの誰かに日和ったと悟られないように僕は自然を装いコースに視線を戻した。

この日撮影した大和田選手
しばらく撮影を続け、再度アタックを試みる。しだいに怖さが先に立って近づけない。
もう時間がない!撤収の時間が迫る!
「諦めるか?いや、それは嫌だ」
「行くしかない」そう決めたとき、チャンスが訪れた。
大和田選手がマシンの傍で一人で立っていた。
思い切って声をかけた —「こんにちは」
表情を見る余裕はなかった。
そのまま僕はカメラで写真を見せ「写真撮らせてもらったんですが、インスタに載せてもいいですか?」と尋ねた。
—心の中では「いや、邪魔だよ。今忙しいんだよ」—そんな言葉を浴びせられる悪い妄想が浮かんでいた。
でも実際返ってきた言葉は予想とは全く違っていた。
「え、撮ってくれたんですか。嬉しいです。もちろんいいですよー。」
その予想外の明るく優しい声を聞いて、僕はやっと大和田選手の顔を見ることが出来た。
それはさっきまでの真剣で怖い表情とは180°違う、優しくて温かい満面の笑みだった。
さらに大和田選手は、「今度筑波のMFJに出る大和田といいます。応援してください。あー、そうだ。名刺渡しておきますね」と丁寧に名刺を差し出してくれた。
先ほどまでの怖さが嘘のようだった。
ギャップの影響もあると思う。
でも何より驚いたのは、初対面の、一介のカメラマンの僕に対しても、誠実に、真摯に、真正面から対等に向き合ってくれたこと。(いきなり声をかけてるから仕方ないが邪険に扱われることもあるのだ。)
その人柄に、僕は心を打たれた。
そしてなにより、大和田スマイル──あの無防備な笑みに、僕は完全にやられてしまったのです。
—そんなわけで、お話に出たMFJ 筑波 JP250(2025 6/20-6/21)に同行、密着取材をさせていただきました—




大和田選手について
大和田亮介 選手(48・取材時)
愛称:バクさん
本業:千葉リサイクルサービス代表 https://chiba-recycle.jp/
今回のマシン:ホンダCBR250RR タイヤ:ダンロップ(ワンメイク)
TEAM:2436GO!&&WORKMAN+&58

「娘より年下の選手に混じって負けないように楽しんでますよ」
そう笑う大和田選手がレースの世界に戻ってきたのは、約7年前のこと。
子育てが一段落し、かつて少しかじったバイクレースへの情熱がふたたび灯った。最初はミニバイクから始めたが、そこで若い頃はテレビで見るだけだった憧れの選手たちと実際に接する機会があったことが、深くのめり込むきっかけになった。
いつしか舞台はロードへ。追いかけるのは、かつて憧れた芳賀紀行選手の背中、そして娘さんよりも若いライバルたちだ。
御本人曰く「孫がいるおじいちゃんライダーです」とのことだが、走りも気持ちも「青春真っ只中」の大和田選手です。
参加するレース MFJ JP250について
今回のレースは、全日本選手権のJP250クラス。
JP250クラスは、4ストローク250ccの市販車をベースとした車両のほか、一部特別に参戦が認可された車両で争うレース。
INT(国際ライセンスライダー)とNAT(国内ライセンスライダー)にクラス分けされ、混走で争われるがそれぞれ表彰があります。
今回の参加者は30名ほど。そのうちNATクラスは16名。
大和田選手はこのNATに属し、クラス表彰台を狙います。
公式練習(6/20 AM・PM)
マシンのセッティングに苦戦を強いられていた。
特にダンロップ下と最終コーナーの高速区間で、フロントの挙動が安定しない。
気温・路面温度ともに高く、フロントタイヤが熱ダレし腰砕けになってしまう。
走行中にプリロードを締めて対応を試みたが、大きな改善は見られず、予選結果は総合17番手に終わった。

走行中も調整可能なFプリロードダイヤル

1枠走行後のフロントタイヤ
僕には分からないが傷んでいるのか?
「頼む、グリップしてくれ」と
念を送りながらシャッターを押した
午後の走行枠「朝の公式練習に比べ、気温も路面温度も上がり、旋回中にフロントタイヤがさらに逃げるようになってしまった。
その影響でタイムは大幅に落ちた。
同じような状況でも、あまりタイムを落とさない選手、落ち幅が自分よりもずっと少ない選手たちもいる。
プリロードを締めすぎたのかも?と思って、一度緩めてみたものの、結局は再び締め直すことになった。」
こういった“引き出しの少なさ”が、自分の弱点だと大和田選手は語る。








ちなみにこの日は、1本目の走行からフレッシュタイヤを投入。
今の走行はそのままユーズドになったタイヤを使っての走行だった。
そして明日の予選に備え練習走行後、新品タイヤを履く予定だという。
そして決勝は予選と同じタイヤのまま15周を走る。
つまり、タイヤの状態という意味では、明日も今日と同じ条件下でのアタックになる。
気温・路面温度も同様に高ければ、さらにプリロードをかけて対応するつもりとのこと。
「今のセットアップって、明日のフレッシュタイヤを見越してのものですか? それとも、今このタイヤに合わせた(決勝も似たようなタイヤ状況で走るため)調整なんですか?」
ふとした質問に、大和田選手の表情が和らぐ。
「いやー、そこって難しいんですよね。ジレンマなんです。
僕は目の前の状態での“ベスト”を出そうとしちゃうんですよ。
だから、明日のためにフレッシュタイヤに合わせたセットも考えておくべきなんでしょうけど、つい“今の状態”でタイムを出すことに一生懸命になってしまう。意識してないと、ついそっちに流れちゃうんです」
そう語る一方で、メンタル面にも触れた。
「ビビリなんで、マシンが横に来るとすぐ引いちゃうんですよ。
でも、フロントがしっかりグリップしてくれたら、ビビリも顔を出しにくい。
バイクって、ほんとメンタルが大きいんですよ。
びびったら負け。明日は、とにかく強い気持ちで走ります!」
そう言って、大和田選手は力強くインタビューを終えた。
予選(6/21)
9:35-9:50(15min)
昨日の練習時に先頭に近いところでコースインしていた大和田選手だが、今回は中団からのコースインを選択。狙いはクリアラップの確保だった。
しかし数周も経たないうちに前走車に追いついてしまい、やむなくペースダウン。すると今度は後方のライダーに迫られ、自分のリズムで走れない展開となってしまった。
「抜いてくれればよかったんですが、そうもいかず……」

相手の速いところ、自分の速いところ、そこが上手く噛み合わないとお互いにギクシャクした走りになりペースが上がらない。
スリップストリームの活用も考えていたが、距離感がうまく合わず、思うようには活かせなかったという。
誰の後ろにつくか、どこで抜けるか──その駆け引きの難しさを痛感した予選のようだった。
さらに気温・路面温度の上昇も影響し、旋回中にフロントが底付きする場面も。決勝に向けては、油面や粘度を調整し、フルブレーキングでも自信を持てるような仕様にセットアップを変更する予定だ。
「技術不足、引き出しの少なさを痛感しました」
インタビュー中、大和田選手の表情は厳しかった。
Best Time 1’05.883 全体20位 NATクラス9位

決勝(6/21)
13:50- 15LAP
好スタートを決めた大和田選手だったが、すぐさま #81 中原選手との激しいバトルに突入。
中原選手は予選21番手、NATクラスの選手。
クラス順位を上げるのが難しい状況で、同じNATの選手に抜かれクラス順位を下げることは許されない。
しかしレース中盤、ストレートで並ばれ、1コーナーで先行を許す展開となる。
「ビビリなんで、マシンが横に来るとすぐ引いちゃうんですよ。」— 昨日の言葉どおりの展開。
「なんとか踏ん張って食らいついてくれー」僕の応援にも熱が入る。
応援が届いたのか、次の最終コーナーには中原選手より前で大和田選手が現れた。
見えない裏のコーナーで抜き替えしていたのだ!
「びびったら負け。明日は、とにかく強い気持ちで走ります!」を早速体現してくれた。
レースでの有言実行の難しさを知るだけに胸が熱くなる—
その後は着実に差を広げ、少しずつマージンを築いていく。
「いつもなら、一度抜かれるとそのままずるずるいってしまう癖があるんです」
レース後そう話す大和田選手だったが、今日は違った。強い気持ちでポジションを奪い返し、集中を切らさずポジションをキープ。
力強い走りが見れて、応援していて嬉しかった。
ラスト数周では再び中原選手の猛追を受けるも、なんとか振り切ってそのままチェッカー。

Best Time 1’06.462 全体18位 NATクラス9位

ゴール後、開口一番に出た言葉は──
「出し切りました」
悔いはない。しかし悔しさはある。
「まだまだやれるはず」
レース後の表情は悔しさが見え隠れしていたが清々しいものだった
レース後、大和田選手はこう語っていました。
スポンサー: レンタルバイク2436GO、ワークマンプラスへの感謝
チーム: 小林隼人選手(全日本ライダー)をはじめ、多くの仲間たちの支え
「この場を借りて、ありがとうを伝えたい」と 「ぜひ書き添えてね」と
取材を振り返って
頂いた名刺の「千葉リサイクルサービス」HPを拝見し、大和田さんのお仕事の経歴を知った。
ある日友人から頼まれ出会った清掃の仕事
そこでの体験に衝撃を受け、20年勤めたお仕事を辞め独立されたそうだ。
年齢からして、おそらく新卒から勤めていた仕事だろう。
新卒から20年も勤め上げたこと、それを辞めてまったく新しい世界に飛び込んだこと
「この人はなんて眼の前のことに一生懸命に真摯に向き合って生きてるんだろう」
そんなことを感じ、あの時のTC1000で感じた大和田さんの誠意ある対応、真摯さ。
今回パドックで見たスタッフの方との真剣でテキパキとしたやり取り、時に「よし、やっちゃおう」「これ、お願い」と的確な指示出し。
あー、思い返せばすべて目の前のことに一生懸命で真摯だったなと合点が行った。
少し話は横に逸れるが、カメラのファインダーで撮影していると、肉眼で見ている時より何かをはっきり感じることがある。
たぶん大きく見える分、腕や頭、肩、時には筋肉の微妙な動きまでも見えるというか、感じ取れるのだろう。
一例を上げると「流してる走ってる」とか「余裕がない感じ」とか「焦ってそう」とかそういう心理的なものを感じるときがある。
────答え合わせをしたことはないので合っているかはわからないけど。
あの時TC1000で大和田選手に感じたのは、「真剣さ」、「ひたむきさ」だったように思う。
僕にはないその真剣さ、ひたむきさ、にファインダー越しに心打たれていたのだ。






芳賀紀行選手モデルのヘルメット 背中に「BAKU」の文字 サーキットで見かけたらぜひ声援を——
時間は前後するが、金曜日、公式練習日の朝こんなDMをくださった。
「俺達は本日から〇〇番ガレージにおります。よろしくおねがいします」
実は、「パドックの場所が分からなかったらどうしよう」と割り当てを聞いて置かなかったことを後悔していた。
広い筑波サーキット、割当によって1コーナー内側、1ヘア内側、ダンロップ下観覧席付近てこともある。
暑さも相まって探すのは難儀だなーと思っていたのだ。

朝筑波についてこの光景を見て軽く絶望
同時に全日本という緊迫感に圧倒された
そんな時に頂いた1本のDM
「神ー」と叫ぶほど心に響きました
そして「やっぱりパドックに入り込むのはビビるなー」とも思っていた。
こんな僕の気持ちを知ってか上記のようなメッセージを下さったのだ。
「なんて親身になって考えてくれるんだろう!この人を最初の取材者に選んで良かった」そんな気持ちで取材をスタートし
レース後、開口一番「出し切りました」と言える清々しさ。
疲れてる、そして何より悔しいはずなのに満面の笑み、そして口を衝いて出るのはスタッフ、スポンサーへの感謝。

取材の最後に集合写真を撮らせてもらう時、まわりは「あの大和田選手?ですかって有名になっちゃったりして〜w」と囃し立てるが(ほんとにそうなったら僕は超嬉しいです)、本人は意に介さず「いあや、ありがたい」と僕にまで感謝してくださる。
数カット撮り終えて「ありがとうございました」というと「こちらこそ」と手を差し伸べて頂き固い握手をして僕達は別れた。
「やっぱり、やっぱりこの人を最初の取材者に選んで良かった」そんな思いを抱きながら。。。
大和田選手、チームの皆様、レースでお忙しい中ご協力いただきましてありがとうございました。
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